立山 剱岳 滑落事故 登山ガイドが伝えたい5つの遭難防止策
北アルプスの剱岳(つるぎだけ)一帯で2019年9月8日から行方不明となっていた19歳の女性が9月12日に遺体で発見されました。
原因は登山道からの滑落だったようです。
これからの活躍が期待される若さだけに、非常に胸が痛む事故です。
謹んでご冥福をお祈りいたします。
北アルプス剱岳で行方不明 横浜の女性会社員(19)遺体で発見
出典:Yahooニュース
このような悲しい事故を防止するためには登山者はどのようなことに注意しておけば良いのでしょうか?
登山ガイドとして5つの遭難防止策をお伝えします。
- 登山初心者の人
- 登山をしたことが無い人
- 富士山に登ったことがあるから他の3,000m級の山も同じように登れると思っている人
- 登山届を提出せずに登山する人
- 滑落するような山には行かないから自分には関係ないと思ってる人
- 遭難は他人事で自分には関係ないと思っている人
1.入念な下調べをする
登山をする前に必ず必要なのは入念な下調べです。
下調べの目的は、登る山のルートがどれくらいの体力が必要でどれくらいの技術が必要なのかを把握することです。
最低でも以下の内容については、登山をする前にしっかりと下調べしてから登って下さい。
- 登山ルート概要(国土地理院地図や山と高原地図で確認)
- 登山ルートの難易度(登山ガイドブック等で確認)
- 登山ルートの所要時間(登山ガイドブック等で確認)
- 同時期の登山道の状況(積雪や危険箇所があるかどうか等をヤマレコ(登山記録共有サイト)等で確認)
- 登山口までのアクセス方法(登山ガイドブック等で確認)
- 登山当日の天気予報(山の天気等、ネットや予想天気図で確認)
- 必要装備(登山道の状況や所要時間に合わせた装備を準備)
登山の必要装備については別記事に書いていますので参考にして下さい。
計画8割、実行2割のつもりでいて下さい。
それくらい登山前の下調べは重要です。
2.自分の実力にあった山に登る
下調べをしっかりとしたならば、どれくらいの難易度の山かは、おのずと分かってきます。
今回事故のあった立山の剱岳は富山県にあるため「信州山のグレーディング」には掲載されてはいないものの、
技術的な難易度で最も難しいEランクに相当する鎖場の「カニの縦ばい」「カニの横ばい」を通る、上級者が登る山です。
Eランクがどれほど難しいルートかというと、
登山道の状況
- 緊張を強いられる厳しい岩稜の登下降が続き、転落・滑落の危険箇所が連続する。
- 深い藪漕ぎを必要とする箇所が連続する場合がある。
必要な技術・能力
- 地図読み能力、岩場、雪渓を安定して通過できるバランス能力や技術が必要
- ルートファインディングの技術、高度な判断力が必要
- 登山者によってはロープを使わないと危険な場所もある
出典:信州山のグレーディング
同じ3000m級の山でも入門者向けでハイキング気分でサクッと登れる乗鞍岳と、熟練者向けで滑落したら死に直結するような剱岳では難易度が全く異なります。
以前から剱岳は滑落事故の多い山です。
このような難しい山へ行く場合は十分に下調べをした上で岩稜地帯での十分な経験、ロッククライミング等で登り方・下り方を練習し、装備もしっかりと整えて行く必要があります。
また、危険個所の鎖場ではヘルメット着用に加え、ハーネスにロープ、カラビナを使って滑落しないように自己確保したほうが良い箇所もあります。
このような難易度の高い山に登る時は自分の実力を過信せず、初心者は他の山でしっかりと訓練をしてから登るようにし、
経験者でも初めて登る場合は熟練者やガイドと一緒に行くと良いでしょう。
3.登山計画書を必ず作成・提出する
今回のケースのように「富山で登山してくる」と家族に伝えるだけで単独で登山に行ってしまった場合、
予定通り下山しない場合、いったいどこに登山者はいるのか? 残された家族や友人は知るすべがありません。
となると、捜索願いを出しても、救助隊の捜索活動は広範囲に及び、発見までに多くの時間を要することになります。
(その分救助活動にかかる費用も膨大になります)
そのためどの山域のどのルートを通ってどの山にいつ登頂し、下山するのか?
を明確に書面で残す登山届(登山計画書)を作成し、家族や友人に渡しておく必要があります。
登山届(登山計画書)を作成する手順は別記事で解説していますので参考にして下さい。
▶登山届(登山計画書)とは?書き方や記入例、エクセルのフォーマットも紹介
出典:富山テレビ放送
登山計画を立てる時、下山もしくは山小屋到着は遅くとも15時までに着くように計画をしましょう。
今回は下山道である「カニの横ばい」を通過されていたのが16時頃と、遅い時間でした。
9月になると日没が早くなるため、登山道が明瞭に見えづらく、事故につながりやすいです。
日没後は街のように明かりがあるわけでは無いため、ヘッドライトが無いと身動きが取れなくなり
ビバーク装備(ツェルトや防寒着)が無いと低体温症の危険があります。
▶【登山初心者必読】 日帰り登山でも絶対必要なあなたの命を守る持ち物とは?
無理のない計画を立て、安全登山を楽しんで下さい。
※以下山の先輩からアドバイスがあったため加筆しました。
4.初心者の単独行は避ける
単独で山に登ること自体、リスクが高まります。
万が一、周りに人がいない場所で滑落した場合、どうなるでしょうか?
グループで来ていれば、他のメンバーの方が携帯電話で救助要請してくれたり、近くの山小屋まで助けを求めにいってくれるでしょう。
単独行の場合だとそうはいかず、救助要請することすら難しい状況でしょう。
もし、道迷いになったら?
初心者のあなたは一人で地図やコンパス、GPSで現在地を把握して
冷静な判断をし、正しいルートに復帰する自信がありますか?
フィールド&マウンテン代表 山田 淳 氏がブログで単独行のリスクについて指摘されています。
➡また一つ起こってしまった悲しい事故を減らすために、我々は何ができるのか
じゃあ初心者は山へ行ってはダメなの?
そういうわけでは無く、熟練者の方や登山ガイドをつけて登れば遭難のリスクはグッと減るでしょう。
そのために我々のようなガイドがいるわけですから。
5.撤退する勇気を持つ
きちんと下調べをしたけど、実際に山へ行ってみたら
- 途中まで登ったけど山頂、下山まで体力が持つかあやしい
- 想定より技術的に難易度が高そうな道が目の前に広がっている
- 思ったより時間がかかってしまい、このまま進んだら日没になってしまう・・・
- 雨が降ってきて登山道が濡れて滑りやすくなってしまった・・・
このような状況になったら、迷わず撤退して下さい。
また別の機会を作って登れば良いのです。
山は常にそこに有り続けます。
生きていれば、またレベルアップして挑戦できるのです。
でも亡くなってしまっては、もう山に登れません。
もう、登れないんです。もう、二度と・・・
だから「生きて帰る」ために勇気ある撤退をして下さい。
まとめ
登山でのこのような事故を防止するため、5つの遭難防止策を今回はお伝えしました。
初心者の方は特に、今回紹介したような下調べを入念に行い、自分の体力・技術レベルに合った山を登るようにしましょう。
また、単独行は避け、状況によっては勇気ある撤退も大事と肝に銘じて下さい。
この記事を読んであなたの安全登山にお役に立てれば幸いです。
最後までお読み頂き本当にありがとうございました。
遭難で最も多いのは道迷いです。
道迷い遭難の対策について↓の記事で書いています。
▶新潟 五頭連山で遭難した親子の結末を見て思うこと。道に迷ったら絶対に○○してはいけない!
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