遭難した藤原岳へもう一度、積雪期に登った話
「遭難」
まさか自分がこんな経験をすることなど予測してもいなかった。
しかし2016年10月、三重県の藤原岳でそれは起こってしまった・・・
遭難した要因としては↓の記事に書いているが、
▶【遭難記録まとめ】三重 藤原岳 〜1,000級の低山でなぜ遭難したのか?〜
- コースの下調べ不足
- 所持していた地図が古いことに起因する現在地把握のミス
- 迷ったと認識した後も「正常バイアス」働いて希望的観測のもと、下り続けた判断ミス
が主な要因だったと認識している。
あれから3年たったが、やはり心の奥底に何かモヤモヤとしたものを抱えている自分に気付いた。
なんとなく近づきたくないような、“恐れ”に近い感覚。
これはもう遭難した人ならではの感覚なのでうまくお伝えできないが、例えていうなら、昔事故を起こした場所にもう一度行きたくない、といった感覚に近いと思う。
個人的な事情により中々この山には簡単には来れなくなりそうなので、その前にもう一度登っておかなくては、と思い立った。
当時一緒に遭難した相棒のコアラに話を持ちかけ、今回の登山が実現した。
道迷い遭難した時と同じルート、同じメンバーでもう一度行ってみよう。
そう、あの時と同じように…
登山データ
日時
2019年12月8日(日)
メンバー:
上田洋平(y-hey):写真も撮れる登山ガイド
このブログ「登っちゃえば?」を書いている「写真も撮れる登山ガイド」。
日本山岳ガイド協会 認定登山ガイドステージ I
山登り歴は15年、一眼レフ歴は10年でキリマンジャロ(5,895m)登頂、アコンカグア5,000mまで到達した時も一眼レフカメラはしっかりと持って登っている。
ドMなので山小屋泊なのにカメラ機材入れると25kgになる荷物を背負って山に登ることに喜びを感じている。
コアラ
自称、ミートテック(ヒートテックの肉バージョン)を持つ、異様に耐寒性能が高いコアラ。
その性能は厳冬期の北アルプスでもダウンを必要としなかったことにより実証済。
マラソンランナーだったのにタバコを吸うようになり駄コアラへと変貌を遂げる。
藤原岳 登山情報
山名:藤原岳(ふじわらだけ)
標高 1,144 m
場所:三重県いなべ市、滋賀県東近江市
コースタイム:6時間15分
ルート
下図の紫線沿いのルートです。
※山と高原地図のコースタイムを記載
藤原岳 登山記(12月)
聖宝寺道 登山口
今回は余裕を持った行動時間を確保するため、早立を心がけた。
登山当日、夜がふける前のAM6時に聖宝寺道の登山口近くにある、観光駐車場(300円)に駐車。
時間が早いためか他の車はあまりいなかった。
まずは登山口となる聖宝寺を目指して道路を歩き、鳴谷神社の奥にある階段を目指す。
獣害防止の柵を越えて階段を進む。
この階段は結構な段数があり、良いウォーミングアップになる。
階段の先にある聖宝寺登山口周辺では色づいた紅葉を見ることが出来た。
登山計画書を出すポストがありますが今回は計画書はオンラインで提出済なので、このポストはスルー。
計画書を作成していなかった3年前と比べると、雲泥の差である。
聖宝寺道 登山口
少し写真が見づらいが、左側に堰堤(土石流をせき止めるダムのようなもの)があり、一旦下って沢をまたいで、また登る登山口。
台風の被害のせいか、道はやや荒れ気味。
道は明瞭なので淡々と登る。
二合目
このあたりで以前テレビ大阪に出演した時にロケをしたことを思い出す。
三合目
四合目
朝日に照らされ木々が眩くきらめく。他にあまり登山者がいない静かな山行だ。
五合目
ここで野生の猿を発見。この山は良く猿を見かける。(↓の写真中央あたりに写っている)
六合目
七合目
八合目
ここで大貝戸道と合流し、他の登山者を見かけるようになる。
同時に登山道に積雪も見えてきた。
九合目
雪が多くなってきて、雪山らしくなってきた。
藤原山荘
藤原山荘には多くの登山者が中で休憩していた。
ここからすぐの場所にある山頂を目指す。
それほどの積雪量でも無く、雪も締まっているのでアイゼンは付けずに登れた。
藤原岳 山頂
藤原岳山頂に到着。ただしここはあくまで今回の山行では通過点に過ぎない。
南側に竜ヶ岳が快晴の空とともにお出迎えしてくれる。
太陽に照らされ、視界の奥に見える伊勢湾も美しく輝いている。
晴れた日の雪山ほど気持ちの良いものは無い。太陽に照らされる雪を踏みしめつつ下る。
藤原山荘で昼食
ここで再び藤原山荘に戻り外のベンチで昼食。
低温環境でジェットボイルの圧倒的火力にはいつも大変助けられる。
昼食を食べ終えると、我々は天狗岩方面へと向かう。
天狗岩
奥には御嶽山や中央アルプスまで見渡せる快晴の空を見ながら歩く。
そして天狗岩に到着。
そこから前回の登山で道迷いの発端となった「頭陀ケ平(ずだがひら)」へ進む。
雪の林の中をしばらく歩くと、東側には鈴養湖(れいようこ)と養老山地が。
そして頭陀ケ平の目印となる鉄塔が見えてきた。
頭陀ケ平(ずだがひら)
さぁ、ここからが本番だ。
前回はこの直下の部分で迷い、判断を誤った。
前回遭難した時は地図読みを相方のコアラ君まかせにしてしまったが、
今回は他人任せにせず、自分で地図を読み、現在地を把握し、自分で冷静に判断するのだ。
最初は急坂を下る。ここにはトレース(踏み跡)が若干ついている。
雪が積もっていてトレースの無い尾根道を下り、送電線を目印にしながら進む。
正しい道を進んでいると途中で道標もあり、すこし安心しつつも気を引き締めて下る。
いつの間にか登山道には雪が無くなっていた。
迷いやすい樹林帯の中を現在地を把握しつつ下る。
途中の鉄塔の下から赤テープの目印があったりする。
647m ピーク
鉄塔の下付近にすこし赤布が付けられている部分を過ぎると、647mピークを示す三角点を発見。
前回はここに辿り着かず坂本谷を誤って下ってしまったので、ここまで来れた安堵感も少し出る。
ただその先にある道は倒木があったせいか登山道が不明瞭で、何度か引き返しつつ下った。
倒木の奥にあるトレースを見つけられるかが鍵。
そして無事に山口登山口へ下山。
今度は自分の足で戻ってこれた。
そこから一般道路の歩道を歩き観光駐車場へ戻る時は、勝利の凱旋をしているような気分だった。
これで胸のつかえが一つ下りた気がした。
本当に、心の底から。
まとめ
この記事を書こうか書くまいか、かなり迷っていた。
何故なら自分の心の中で葛藤があったからだ。
過去に辛いことがあった場合、それを振り返らずフタをして封印することもできる。
記憶から消してしまい、無かったことにしてしまえば良いのだ。
だがそのような記憶はある日突然蘇ったりすることがある。
そのような辛いこと、忘れてしまいたいことを克服したい場合は
自分自身をレベルアップさせ、再びチャレンジしそれを乗り越えることだ。
何も「オリンピックで世界記録を出せ!」、と言っているわけでは無い。
過去の自分に少しだけ打ち克つようにするのだ。
精神的にも。肉体的にも。
いつだって比べるのは“過去の自分”だ。他人では無い。
もしあなたが何かのトラウマを抱えているなら、僕のこの体験が少しだけ役に立てるかもしれない。
そして、きっとあなたもそんな過去を乗り越えられる。
応援しています。
最後までお読みいただき本当にありがとうございました。
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みなさんとお会いできるのを楽しみにしています(^o^)